あなたは、「スラム」という言葉から何を連想しますか?
トタン屋根の掘立て小屋が密集する貧民街、異臭を放つゴミだらけの路地、痩せこけた身体にボロをまとった人々・・・スラムのイメージとは、このようなものではないでしょうか。
仕事を求めて地方から大都市に流れ込む貧困層の人々は特定の地域に集まり、その居住地の多くは過酷な環境にあります。インド最大の都市ムンバイには多くのスラムがあり、アジアでも最大規模のダラヴィは、人口100万人を超す巨大な「都市」です。
膨らみ続けるこの地域の人々の生活改善をしようという試みでスタートしたのが、私達がご紹介する「スラムツアー」です。地元のNGOが行うこの事業の目的は、外部の人間にスラムの実態を知ってもらうことと、事業の収益をコミュニティの生活改善や子供達の教育に充てることです。
ツアーでは、スラム内の経済活動を見せます。大規模のスラムは多くの人口を抱え、独立したコミュニティーとして機能しています。広大なエリアの中で、住人により多数の事業が行われ、多くの人々が働いているのです。プラスチックや段ボールのリサイクル、衣料品や食品の製造など、彼らの事業は外部の都市生活と密接な関係を持っています。そして、地方からの季節労働者に職を提供する場でもあります。
スラムの住人達は、自分たちの次の世代がスラムを出てより良い生活を送るために、教育が必要であることを認識しています。しかし、政府が運営する公立学校は常に教師が不足しており、貧しい人々が十分な教育を受けるのは困難な状況です。
観光客をスラムの内部を案内することで収益を得れば、それを教育に回したり、彼らの生活改善に使ったりすることができます。それがこの事業のアイデアでした。しかし事業化には時間がかかりました。好奇の目で見られるであろうという嫌悪感と、事業が地域にどう役立つかという不信感があったからです。
創業メンバーは根気強く地域の人々との関係性を作っていきました。彼らは一緒に試行錯誤を重ねながら、持続的なシステムを作り上げ、 今では世界中からツアー参加者が集まるようになりました。運営会社は別途NGOを作り、ツアーで得られる収益の80%を地域に還元しています。コミュニティスクールには大人も参加し、英語やコンピューターの使い方を学ぶ人も増えました。子供には、お互いを思いやることや、礼儀正しさなどの道徳教育にも力が入れられています。
実際にツアーに参加すると、人々の明るさに驚かされます。はしゃいで走り回る子供達の姿も印象的です。日本のように一見何不自由ない恵まれた社会に住んでいても、過度のストレスを受けて精神的に疲弊している人は大勢います。原点に戻って「生きる」ということの意味を考えるとき、彼らの前向きな姿に勇気をもらえる日本人は、決して少なくないはずです。
衛生面の改善など課題はまだ山積していますが、インド全体の変遷とともに、彼らの社会にも、確実に変化の波が押し寄せています。 セレブ・インディアでは、インドで教育や社会活動の視察ツアーを行ってきた関係で、多くの団体やNGOを訪問し、その過程でこのスラムツアーに出会いました。このツアーを運営している会社をご紹介します。
【運営会社】
リアリティツアーズ&トラベル(Reality Tours and Travel)
2005年8月、イギリス人クリスとインド人クリシュナが共同で立ち上げた社会貢献プロジェクト。ムンバイ最大のスラム、ダラビに拠点を置き、スラムツアーを行っています。ブラジルのスラム、ファベラのスラムツーリズムにヒントを得て、ツーリズムによってコミュニティの改善に貢献するという目的で作られました。ツアーの利益の80%は同社が運営するNGO、Reality Givesに寄付され、主にスラムの子供達の教育に使われています。
2009年のアカデミー賞作品賞を受賞した映画「スラムドッグ$ミリオネア」の主人公は、ダラビ出身という設定でした。主人公が遭遇する悲惨な境遇が、一般的なインドのスラムのイメージでしょう。しかし、現在のダラビは、「最貧の人々が住む非衛生的でゴミ溜めのような場所」ではありません。コミュニティ内は整備され、数々の事業が住民の手によって運営されています。大人たちがコツコツと真面目に働く姿と、町を走り回る子供達の明るさがとても印象的です。
2014年には、デリー最大のスラム、サンジェイコロニーでもツアーを開始。会社を立ち上げた時は見向きもされなかった彼らの活動は、今や多くの人々の賛同を得て、年間15,000人が訪れるまでになりました。
社会事業を行う会社として、働くメンバー1人1人の意識が高く、スラムの人々との強い信頼を築いていること、世界に向けての情報発信に取り組んでいることなどが彼らの強みです。
2017年、セレブ・インディアは、代表者がこのツアーに参加したことがきっかけとなり、リアリティツアーズ&トラベルの日本でのパートナーになりました。以来、ムンバイ、デリー双方に日本人をご案内しています。
ツアー開始からのストーリーは、動画にわかりやすくまとめられています。日本の方にもぜひ見て頂きたいと思い、リアリティツアーズの許可を頂いて、日本語字幕をつけました。翻訳と字幕作業は、セレブ・インディアの手配でこのツアーに参加してくれた、慶応大学公認の学生団体S.A.L.のメンバーが手伝ってくれました。9分間のビデオを、ぜひ最後までご覧下さい。
ツアーの内容はこちらからご覧ください。