インドとの出会いは人それぞれ。
旅する人の数だけ、ストーリーが生まれていく。
もともとインドに全く興味がなかった私が、
インドに特化した旅行会社を始めるなど、夢でも考えない出来事だった。
ものごとは、自分が思うようには進まない。
だからこそ、人生は面白いと思う。
仕事でインドに通い始めてからも、良くも悪くも、たくさんのストーリーがあった。
今でも、インドが好きかと聞かれれば、正直なところ即答できない。
それでも、ひとつだけ明確に答えられることがある。
それは、「インド人は底抜けに面白い」ということ。
インドにはハマらなかったが、「インド人」にハマった、というのが、
私がインドと付き合い続ける理由なのだと思う。
心に残る思い出のひとつを、ご紹介します。
・・・・・
ある日の夕方、友人と郊外で待ち合わせをしていた私は、オートリキシャで目的地付近に早めに到着した。
少し郊外の、駅に近い橋の脇で下車することにした。
スマホに友人からのメッセージが入った。渋滞にはまって車が動かないから少し遅れる、とのことだった。
インドの渋滞はすさまじい。いつものことなので、私は気長に待つことにした。
すると、ドライバーのおじさんが、友達はまだ来ていないのか?と聞く。
「ここで少し待つから」と答えると、もうすぐ日が暮れて暗くなるから、一人でいるのは良くないと言う。
この辺は治安が良くないから、外国人が一人でいるのは危ないと。
「私はインドに慣れているから平気ですよ」と答えて時計を見る。友人はまだしばらくかかりそうだ。
するとおじさんは「いや、やっぱり一人は良くない。あなたが友達に会えるまで、ここで一緒に待ちます」と言い出した。
約束の時間を30分くらい過ぎて、少し薄暗くなってきた。友人の車はまだ到着しない。
私たちが道端に止まっていると、オートリキシャに乗ろうとするお客さんが次々に寄ってくる。
おじさんはその都度、今お客さんと一緒にいるから車は出せない、と言ってすべて断ってしまった。
一時間経った。
「もう大丈夫ですよ。せっかくお客さんがあるんだから、仕事した方が・・・」
「今日の仕事はこれで終わりにします。」
「え???」
「このまま、この場を離れたら、あの外国人はどうなったんだろう、と後でずっと心配になって、夜寝られなくなります。」
「え!!!」
結局友人は、1時間半近く遅れて到着した。
その間おじさんは、いやな顔ひとつせず、ずっと一緒に待っていてくれた。
おまけに、待ち合わせ場所には車が多すぎて、友人の車が見つけられず、おじさんが電話して見つけ出してくれた。
ようやく現れた私の友人を見て、おじさんはホッとした表情になり「良かった、では帰ります」と言ってオートリキシャに乗り込んだ。
私は慌てて、バッグの中の現金を探した。
そのまま仕事をしていれば得られたであろう金額を渡して、心からお礼を言った。
おじさんは笑顔で受け取ったが、それを期待していた様子でもなかった。
そして、エンジンをかけ、元来た方向に向きを変えて、暗くなった道を颯爽と走っていった。
この先二度と会うことはない、見ず知らずの一人の外国人のことを心配して、
自分の時間をこれだけ費やす人なんて、日本にはまずいないだろう。
インドでは、時にそんな人に会う。
それも、一度や二度ではない。
考えもしない行動を取る人たちが溢れている国なのだ。
長い眠りから突然目覚めたかのように、
高度成長のフェイズに突入したインドのエネルギーは、凄まじいことこの上ない。
人間もまた、とてつもなくエネルギッシュだ。
当然ながら、よいところばかりではない。
押しの強さに辟易することもある。
ノンストップのおしゃべりに疲れることもある。
いい加減さに頭にくることもある。
でも、人間の優しさも、ずば抜けている。
ただの観光だけじゃ、もったいない、
ビジネスだけでも、もったいない、
いいところも、そうでないところも、全部ひっくるめて、
人間の本質を見つめられる場所。
一人でも多くの日本人に、実際に現地に足を運んで、そんな人々に出会って欲しい。
その橋渡しをするのが、私たちの役目です。
セレブ・インディア代表
宮本洋子